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【まちゼミ特集】府中に息づくお店探訪「HOLIDAY府中」

※緊急事態宣言及びGOTO商店街事業一時停止延長に伴う国からの要請に従い、店舗内等で行うまちゼミについては中止となりました。
 Zoomを使ったオンラインまちゼミは予定通り実施いたします。
HOLIDAYさんの講座は、16番「食医から見るファストフードと理想の食事」のオンラインまちゼミが開講されます。
【オンラインでの開講講座一覧はこちら】

 

{{{このコラムは「第3回むさし府中まちゼミ」の講師となる方への取材を通して、府中に息づくお店を紹介します。取材を行ったのは、府中に関わる学生を中心とした若者達。若者の視点で府中のまちなかが見えてきます。
※この記事は2020年12月の取材に基づき作成されました。}}}


食医を体現するHolidayシェフが今伝えたい、ファストフードの危険性とあるべき食事の姿

府中駅北口からほど近く、住宅街にひっそりたたずむHolidayでは、「人の心と身体に生きるエネルギーを与える食」をテーマに、オーナーシェフである桑原 伸悦さん自ら6時間かけて仕入れた食材で、ジビエや創作料理を提供しています。

また、人と食を支えるため、産地の地域振興や、コロナ禍で苦しむ方々の支援など多くの活動にも取り組んでいる桑原さん。2021年の街ゼミでは、ファストフードに警鐘を鳴らし、本来あるべき食事に関する講座を予定しています。

ここでは、桑原さんのご経歴と食に対するこだわりをご紹介します。

 

Holidayにたどり着くまで──「料理の道」から「人と料理の道」へ

僕は今39歳ですが、料理を始めたのは15歳の時なので、もう24年目ですね。
一応高校にも通いましたが、高校1年生の時に論文で全国4位になり、「大学には行けるから、出席だけ取れ」と先生に言われて、馬鹿らしくなっちゃったんです。そこで、勉強は辞めました。

これから何をしようか考えたときに、ふとロサンゼルスでサーフィンしようと思い立ったんです。親に勘当されながらも、アメリカに行きました。
しかし、到着した空港でスリに遭い、所持金がほとんどゼロに。死ぬかと思いましたね。偶然、お寿司屋さんがあったので、「働かせてください」と頼み込みました。当然「ふざけんな」と言われましたが、話しているうちに、ご主人と出身が同じだと判明したんです。お給料はもらえませんが、三食と光熱費とアパートを貸してくれて、住み込みで働き始めました。
もちろんサーフィンもして、3年間滞在しました。

 

その後は、一度日本に帰国。寿司を学び、再び渡米して永住権を取るつもりでした。

しかし、銀座のホテルで洋食担当になって、まったく変わってしまいました。料理に目覚めたんです。厳しい先輩の下で悔しい想いを重ねて、どうにか味を覚えようと試行錯誤しました。
先輩が捨てた食材をゴミ箱や洗い場から拾いだして食べて、味を覚えていましたね。学ぶのが楽しくなっちゃったんです。

表参道、銀座で働いた後、フランスのパリ、スペインのバスク、ビルバオへ勉強しに行きました。
帰国後は、お店のコンサルタント、メニュー開発、出張料理などをしていました。

 

そんな中、東日本大震災が発生。
僕は岩手で震災の被害に遭った友人と一緒にアワビ生産の再起を図ろうとしていましたが、その友人と死別します。そのときは、もう料理を辞めようと思いました。

しかし、今までお世話になってきた人や周りの人を考えて、もう一度やろうと決めたのが転機です。
それまでは綺麗な料理を追求していましたが、大切なものを失ったことで、幸せってなんだろう?人への思い遣りってなんだろう?と、食を通して考え直しました。
そこで僕は、美味しさを追求した食材を仕入れるよりも、素朴だけど人が生きるエネルギーになる食事を形成することを選びました。その想いを胸に、Holidayを構えたのが4年前になります。

食材に徹することは、人に徹すること──Holidayは“ラボ”であり、食の発信地である

Holidayは“ラボ”です。
それを府中でオープンした理由は、3つあります。
一つ目が、神社の存在。毎日お参りに行っています。でも、「お祈り」は辞めました。代わりに毎日、全力で生きることができてありがとうと言いに行くようにしています。ちなみに、大國魂神社はまじない、医療、食を民衆に伝えた経緯があるそうです。なので、自分が食を伝えるのにもふさわしいかなと。
二つ目が、僕は人が多いところが苦手なので、けやき並木など自然が多いとリフレッシュできるからです。
三つ目が、東京農工大学。先生たちの研究データを使用させてもらっています。特に、野生動物研究の第一人者である梶 光一先生とは、「自然肉のあるべき活用法」を一緒に議論し、皆さんに美味しく食べてもらえるよう努力しています。
また、現代における農業をしっかりと学ぶことで、何が大切か、何をどう伝えるべきかをじっくり考えられるんです。「食の研究」ですね。だから、“ラボ”なんです。

 

Holidayでは、まずメニューが日によって変わります。
畑に行って、仕入れられなかったら出せませんから。仕入れは業者を通さず、必ず直で。魚は近江町に電話して仕入れますし、野菜はあきる野市、奥多摩町、檜原村などに自分で行きます。仕入れだけで6時間はかかりますね。それを週に3回。

その日に獲れた食材には生命力があります。段ボールに詰めて冷蔵庫で保存した野菜は、果たして細胞レベルで元気でしょうか?僕は、山の養分と川の養分を受けるために、基本は自分で行ける範囲から手に入れます。
味は正直、甘みが少なく、素朴です。素朴で人に感動を与えるのは難しいですが、身体はその違いを分かります。

食材に対して徹底的にこだわるのは、もともとフランスで星を狙っていた経験からです。

星付きレストランで、冷凍食品や輸入品は絶対に使いません。目の前の人に良くしたいと思うように、お客さんに良いものを食べてもらいたいと考えるからです。
良いもの=高いものではありません。僕は、“食医”に徹して体に良いものを提供しようと思っています。つまり、細胞レベルで生命力があるものです。たとえば、なるべく化学肥料や農薬を使わない野菜ですね。普段から仕込みもしません。切った瞬間から酸化してしまうので、袋も切りません。そして、野菜を切った瞬間には、「この子の水分はこれくらいだ。ということは、先週雨が降ったんだ」と思い、触った瞬間には「このトマトはきっと甘いから、こうやって切ろう」と考えながら料理します。食材に徹することは、人に徹することなんです。

 

リラックスできる内装で、和気あいあいとトークできる場を提供したうえで、こういった料理がある、これが僕の店です。
○○料理というジャンルでは括れません。食に関する発信が重要なので、料理でまとめられなくなってしまいました(笑)
ただ、生産者はみんな知っているので、すべてにバックストーリーがあります。
僕は調理という作業ではなく、料理という芸術で、そのすべてを表現しているのです。
その結果として、テーブルが華やぎ、また来たいと思ってもらえたらいいなと考えています。

食を守るためにできることは全力で──お弁当作りからジビエ加工のサポートまで

現在はHolidayの他に、石川県白山で小学校だったところに障がい者施設と老人ホームを設立し、障がい者の方に野草茶やソーセージを作ってもらって、僕が東京で販売しています。

地域の方も応援してくれて、地域全体が活性化しています。また、岩手で唯一のジビエ加工施設のサポートもしています。最近では、病院にお弁当を出しています。朝5時に仕込み始めて、11時くらいに運び、帰ってきたらディナーの準備に入る日々です。
また、子育てしている方の助けとなる冷凍のスープも作っています。素材にこだわりつつ、忙しくてもすぐ食べられるものを心掛けています。冷凍できるものは配送サービスしていく予定です。

持続可能なことをするのは簡単なことではありません。
僕は思い付くのが得意なので、とにかくそのアイデアは形にしていますが、最終的にどんな形になるかはわかりません。いつか芽が出ればいいかなと思いながらやっています。

今後については、継続以外考えてないですね。白山でジビエを支えてくれている人がいなかったら、今の自分はいないので、彼らを支えます。梶 光一先生にはご教示いただいている分、ハンター育成の学校を作ったり流通経路の確保をサポートしたりしています。
みんながファストフードを食べて、病院でもらった薬を飲み、農家さんは野菜が売れないから土地を売ってしまう──こういった世界になったら終わりだと思うんです。そうならないように頑張っている人たちとつながっていきたいと思います。
食べ物に魅力を感じて、食べ物の仕事をしているので、それを守るために今僕ができることを全力でしていきます。

ラボの研究発表として、まちゼミで伝えるファストフードの危険性と今すべき食事方法

まちゼミも僕にできることの一つだと思っています。チャレンジですね。お客さんと向き合うために、僕自身も勉強しますし。互いに成長できる点が良いと思っています。

今回のまちゼミで僕が伝えたいのは、ファストフードの危険性と今すべき食事方法です。
ファストフードが流行りすぎて人間の身体が退化してしまい、良い状態に戻れなくなっています。

というのも、ファストフードの味になれてしまうと、脳がマヒしてしまいます。
舌で感じたものを脳が認識して成り立つ味覚が、過敏に味付けされた食によって狂ってしまい、美味しいと感じられなくなるのです。
たとえば、よくある牛丼は、海外の安い肉に死んだ牛の骨の粉などをまぶして煮ることで、牛肉の味になっています。この添加物が恐ろしいんです。
さらに、ファストフードやコンビニの食事では咀嚼も少なくなります。会話もなく一人でスマホを見ながら食べるのも間違いです。しかし、今はこういった早くて安くて美味しい食が求められています。僕はここにアプローチしたいと思っています。

本来、食事は会話をしながらゆっくりと味わい、楽しむ、そして記憶に残るものです。
感動のない食事の回数を重ねるよりも、一回の食事に感動し、それをキープする方が大切なんです。さらに食事は、人格と人体を作ります。だから、僕は食に向き合っています。

まちゼミには初回から参加していますが、今年はオンラインと店舗で行います。
まちゼミのおかげでお客さんが劇的に増えることはありません。
それでも、来てくださった方が食料自給率の低さなどに意識が高まり、生産者さんの助けにつながればと思っています。

 

 

【インタビュー・文】島津明日香(東京外国語大学4年)
【写真】徳梅元気

 


【店舗情報】

HOLIDAY

住所:〒183-0055 府中町1-27-1 パークロード107号
TEL:042-403-1231
定休日:月曜日

 

公開日:2021.01.5 / 最終更新日:2024.3.24

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