お店&施設情報
府中に息づくお店探訪「府中薬局本店」in ル・シーニュ
このまちの健康の寄り合い場~住民のいきいきをサポートする調剤薬局~
府中駅の南口から出てまっすぐ進んだら見えてくる、ル・シーニュの2階にある府中薬局。白と木の色を基調にした店内はそのおしゃれな装い以外にもどこか一般的な調剤薬局とは異なる雰囲気が漂います。店舗に入ると、お悩み別にまとめられた商品、手書きで細かく書かれたPOPなどがずらり。お薬を受け取るだけのイメージがある薬局ですが、この府中薬局では、府中に対してどのような思いを秘めた人びとがいるのでしょうか。
今回は、ヘルスケア推進リーダーの原田依理子さんと代表取締役の田辺正道さんにお話を伺いました。
薬局は薬を受け取るだけの場所?
田辺さん:薬局は薬を受け取るだけ、処方箋がないと入れないでしょと言われますが、昔は違いました。開店した時(1951年)は大きなビルではなくて町の商店街があって、その中に府中薬局があったんです。薬局の上の階に家族で住んでいて、生活と薬局を共にしていました。夜中に店のドアをたたいて、「娘が熱を出した」と訪問しに来る、そんなことが当たり前でした。当時は健康に困ったら初めにここで相談してくれて、まさに、町の健康を支える場所だったんです。
90年代から門前薬局と呼ばれる、病院やクリニックに隣接しているような薬局が増えました。また、薬局の世界でも、これからオンラインで薬をやり取りするようになっていくようになると思います。確かにそれらは効率的でいい面もありますが、さり気ない雑談から健康の状態や生活の状況が見えてきたり、お客さんも話せる場があるというのは大事だと思っています。そこで、リアルなお店の価値を感じてもらうために、このお店では「コミュニティ」を大切にしています。
原田さん:現在の府中薬局にはまちの健康ホットステーションというコンセプトがあって、4つの意味が含まれています。困ってることを解消してほっとする場所、ホットな温活、面白さのホット、スタッフのホットな情熱。お店として推している温活だけでなく、面白い商品や体験に出会えたり、お店を居場所に感じてもらうことを目指しています。このお店をどうしたらより良く出来るか、スタッフの皆で考えてコンセプトを作りました。
ファンができる薬局
田辺さん:私たちは「みんなにいいね!申告制度」といって、スタッフ同士でいいね!を送り合って表彰することがあります。その中で出たエピソードなのですが、高校生で「鎮痛剤がほしい」という方が来店してくれたときの話です。その時いたスタッフが様子を見て、こっそり生理痛かどうかを確認し、冷えの痛みが緩和する生理用品のサンプルをお渡ししました。
実は、その時の高校生とスタッフのお子さんが友だちで、「声をかけてくれた」「優しさに触れて泣きそう、ありがとう府中薬局」というやり取りがあったことが後から分かりました。日頃からの何気ないスタッフの対応が、学校のお友達同士で共有されているということがたまたま分かり、とても嬉しく思った出来事でした。
原田さん:府中薬局は「ファン」が作れる薬局だと思います。いつも丁寧な接客を心がけていて、〇〇さんにお願いしたいと言われることもあります。ドラックストアとの大きな違いは、スタッフの顔を知って会いに来てくれる、そしてこちらも患者さんの顔を見られること。
効率を重視するドラッグストアでは深い相談ができないので、もっと会話をしたいという方がこの店にいらっしゃいます。ドラックストアでは、店員さんに「商品名」を聞くことが多いと思いますが、薬局では「痛みが気になるけど何がいい」と相談から入ることになります。
初めての育児でどこに相談すればいいかわからないというお母さん方もいらっしゃって、この場所で自分の悩んでいることをはき出して笑顔で帰られる。他には、管理栄養士や元歯科衛生士もいるので、ひとつの悩みに対していろんな面でサポートできます。
会話が生まれるまちのより処
原田さん:うちの店舗では「いらっしゃいませ」とは言わず、必ず挨拶から入ります。いらっしゃいませに返答する言葉はあまりないですが、「こんにちは」は誰に対しても使えますし、相手も「こんにちは」と返すことができます。また、そこから会話が生まれることもあります。買う商品が決まっていて、それを買いに来るだけではなく、ふらっと気軽に入って来てもらえて、話が出来る雰囲気を意識しています。
田辺さん:スナックのママのように、気軽に話しかけやすい場を作ることをイメージして、道に面する「カウンター」を設置しています。一般の薬局のカウンターだとただ物がたくさん置いてあって販売する機能しか持っていないことが多いですが、同じカウンターであってもバー等のカウンターはコミュニケーションが取りやすい空間です。店員がお客さんと面と向かって話せるし、お客さん同士でも横で話せたりもする。
原田さん:道を聞かれることも多くあります(笑) でもそれが、話すきっかけにもなるんじゃないかなと思うんです。
道を聞かれるだけでも、また次に頼ってくれるかもしれない、「府中薬局にいけばなんとかしてくれる」と思ってもらえたらいいなと思っています。
みんなでつくっていく薬局と府中
田辺さん:昨年8月にリニューアルするときに、当社のお客さんや患者さんに加え、近隣店舗の社長さんや薬学生、一般の方をSNSで募集して、プラッツで座談会をしました。皆さんにとって、より良い薬局の姿とはどんなものか?を聞くためでした。また、武蔵野美術大学の学生が通行人に調査して、どういうことが求められているのかということからコンセプトを出してもらったところ、「コミュニケーションを大事にする薬局」を考えてくれました。そのコンセプトを基に、バーカウンターを設置するなど実際のリニューアルにアイデアを取り込んでいきました。
この店では、リピーターではなく「ファン」をつくっていきたいんです。ただ「お店がよかった」と思ってもらうだけでなく、座談会や会話などを通してまちの皆さんと一緒に店をつくっていきたい。
原田さん:古くからあるけど、時代と共に変化していく、進化していける薬局でありたいです。店に「これじゃなきゃいけない」というゴールはなくて、その時のニーズに合わせて寄り添っていけるようにしたいです。それから、府中のまちの人が健やかになるお手伝い。まちづくり府中さんのホームページを見ると、同じようにまちをよくしたいというお店や団体がいっぱいあって、今後一緒に何かできたらな、と思っています。
田辺さん:神社、競馬、ラグビーがあったり、けやき並木通りがストリートテラスになっていたり、府中にはハレの日の盛り上がりをつくる力があると思います。私たち府中薬局も「健康」をキーワードにまちの盛り上がるムードに協力していきたいですね。
薬局でインタビューをするということで、どんなことが聞けるのだろうと少し緊張していましたが、ドアを開けた瞬間あたたかい空気に包まれ、お話を聞いているときも笑顔が耐えない時間でした。取材を受けていただきありがとうございました。
「地域のより処になりたい」というホットな情熱とあたたかさを持つ府中薬局本店さん。身体の不調から日々の些細なことまで、お買い物帰りに気軽に相談しにいきませんか。
(文:梅本杏月 東京農工大学学生)
(写真:荒井英美 東京外国語大学学生)
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