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府中に息づくお店探訪「啓文堂書店府中本店」in ぷらりと京王府中

府中に息づくお店探訪「啓文堂書店府中本店」in ぷらりと京王府中

啓文堂書店府中本店~人生を変える1冊に出会える場所~

京王バスに揺られて終点の府中駅まで向かう。下車するとすぐに、ガラス張りの壁に覆われた大規模な本屋が目の前に現れる。今回取材する啓文堂書店府中本店は、1975年創業の歴史ある書店だ。一号店を府中の街に構えて以降、現在は東京都内に22店舗を展開している。今回は本店の店長と、企画担当の書店員に話を伺った。

本店ならではの取り組みとその魅力

本店では、月替わりのイベントを企画し、来店客を飽きさせない試みがなされている。例えば5月には、府中をはじめとする武蔵国の守り神が祀られている、大國魂神社の「くらやみ祭」に因んで、祭りのガイドブックや多摩地域の地形にまつわる本などを特集し、府中の人々に地元の伝統や歴史を一層楽しんでもらえるようなコーナーを作った。

(左:「くらやみ祭ってナンだ?」かぶらぎみなこ / 右:「FUCHU illustration GUIDE BOOK 府中まちあるきイラストガイド」かぶらぎみなこ)

今月の目玉は「啓文堂古書市」である。様々な古書店によって厳選された古本に加え、アイドルのCDや黒電話、キューピー人形などの雑貨が並び、まるで懐かしのあの頃に戻ったような感慨を持つ。新しいモノだけではなく、歴史が積み重なった古本や雑貨があることで、思いがけず時間の流れに想いを馳せる体験となった。さながら神保町の古本市のようなラインナップを、府中でも気軽に楽しむことができるのは、非常に魅力的だ。

アンリアルでは味わえない発見と感動を

店長は、こうしたイベントを行うことで、来店客を楽しませ、何度でも来たいと思ってもらえるような空間を創ることを心掛けていると語る。昨今はオンラインショッピングが勢力を強め、店舗で書籍を購入する機会は段々と失われつつある。ただ、オンラインで書籍を購入する場合、目当てのものが決まっていることが多く、偶然の出会いは少ない。それに引き換え、たくさんの本が選り取り見取りの書店では、購入するつもりのなかった書籍をふと見つけ、思わず手に取るような発見があるかもしれない。アンリアルでは感じられない、リアルな喜びを体感できる場としての書店の存在意義は大きい。

文脈の本棚」に詰まった世界

店内を一通り巡った後、とある書棚の前で足を止めた。「文脈の本棚」と呼ばれるこの書棚では、「music」や「文化人類学」、「食のせかい」など、多様なテーマが取り上げられていて、小説や絵本などがジャンルを問わず集結している。整然と分類された他の書棚に反して、急に出現するダイバーシティに違和感を覚えつつも、じっくり見るとどの本もついつい手に取りたくなってしまう。この書棚こそ、書店ならではの発見と高揚感を味わうことができる空間だ。この企画の担当者曰く、他の従業員と協力して1つの書棚をレイアウトすることで、自分が知らなかった作品にも目を向けることができ、知見が広がるそうだ。来店客だけではなく、店舗で働く方々にとっても心惹かれる一角になっていることが窺えた。

1冊の本が人生を動かす

前述の担当者に、何気なくおすすめの1冊を尋ねたところ、北方健三の「水滸伝」を挙げていただいた。かつて人間関係に苦労した時期があり、小説の中で描かれる登場人物の生き様、上下関係の在り方に大きく感銘を受けたのだという。彼にとってはまさに人生のバイブルのような存在なのだろう。

本には人を変えるエネルギーがあり、小説に限らず、旅行本や写真集でも、誰にとっても人生を変える1冊があると言う。書籍以外にも、音楽・アニメ・舞台芸術など、人々の心を動かすコンテンツは数多くあるが、自身が持つ感性を大切にして、何かしらその琴線に触れるものを見つけ出してほしい。こうした信念に基づき、来店客の人生に影響を与えられる1冊を届けたいという願いを込めて、店に並べるものをピックアップしているそうだ。

残念ながら私はまだ、自分の人生を動かすような1冊との邂逅は果たしていない。しかしながら、素敵な信念を持つ従業員の方々に選ばれた本が揃うこの書店に足を運び続ければ、いつかその1冊に巡り会うことができるのではないかと思った。この記事をお読みいただいた皆様にも、運命の1冊を探しに、ぜひ啓文堂書店府中本店を訪れていただきたい。

(文:山口 紗和 東京外国語大学学生)

(写真:荒井 英美 東京外国語大学学生)