SPIRIT lives in Fuchu かぶらぎみなこさん

イラストでつなぐ、まちの記憶
府中で商店会マップやイベントのパンフレット…何気なく手に取ったチラシの片隅に、やわらかな線で描かれたイラストたち。このまちで暮らす人たちには、見覚えがある絵ではないでしょうか。描き手は、府中生まれ府中育ちのイラストレーター かぶらぎみなこさん。
そんな生粋の府中人である かぶらぎさんがイラストレーターとして活動するなかで制作に込めた想い、そして府中との関係についてお話を伺いました。

介護の通い道が、まち歩きの入口に
イラストを描いて30年ーもともと絵を描くことは身近な存在だったというかぶらぎさん。幼少期から、見たもの何でも絵で表現したいとずっと描き続けてきた。ところがある日突然、父親の介護生活がスタート。制作のペースは落ちてしまったそう。「毎日病院へ通うだけでは気持ちが重くて。せめて通い道に楽しみを作れないかと思ったんです」。自宅から病院へ向かう途中、旧甲州街道を通る際に「端から端まで歩いたことがないな」と思い、少し遠回りして路地に入ってみた。初めて見る小さな神社や商店、季節の草花。沈みがちな心をふっと持ち上げてくれる発見が、そこにはたくさん散らばっていた。
「全部描けばいいのに」のひと言から
気分転換のまち歩きは、やがて描くことにつながっていく。歩いてはメモを取り、「府中って、意外と知らないものが多い」と気付く。そんななか、「せっかくだったら全部描いてみたらいいのに」という知人のひと言で、府中市全域の絵地図を描くことに。描き始めると「ここが違う」「そこが違う」と様々な声が届き、少しずつ精度が上がっていく。最初はざっくりしていたものが、修正を重ねるごとにくっきりしていく。「描けば描くほど、まちのいろんなことがつながっていく感じがありました」。そうやって夢中で描き上げた。
完成した絵地図は、地域の案内物として配布されるようになった。この絵地図を見ながら外へ出掛ける人がいる。自身の実体験が、紙面で使える情報へと変わる瞬間だ。かぶらぎさんの中で「府中で暮らすこと」と「府中で仕事をすること」が自然とつながっていった。

1枚の絵が、まちの記録になる
デジタルでの情報は更新が早い。便利な一方で、上書きされて消えてしまう景色がある。だからこそ紙に遺す意味がある。「ここにこんなのがあったよねって思い出せる。イラスト制作は、まちの記録をとどめる役割もあると思うんです」。まちの風景は少しずつ変わる。変化を追いかけ、今の府中を描いて遺すことが、次の世代へのバトンになる。
描く前に、まず体感する
取材で大切なことは、現地へ足を運び、体感することだとかぶらぎさんは話す。写真だけでは拾えない空気感、そこに広がる音や体温。「自分の中に1回取り入れて、咀嚼して。それをイラストで分かりやすく伝えるのが、私の仕事だと思っています」。どこへ行くにも相棒となっている画材を使い分け、手の感覚で組み立てていく。かぶらぎさんらしい優しくて温かみのあるタッチは年齢問わず誰からも愛されている。

初心者目線で描いたラグビー観戦記
府中を拠点に活動するクラブチームの依頼も舞い込んだ。ラグビー観戦記の制作だ。ラグビーは観たことがなかったが、それが武器になった。「ラグビーに精通している方の解説本はたくさんあるけれど、全く知らない人がつまずくところって違う。そこを絵で説明できたら、もっと興味を持ってもらえると思ったんです」。ルールの要点や会場での過ごし方など、ビギナー向けに分かりやすく描いたイラストルポはラグビーファンにも好評で、これから続編の制作も予定されているそう。
描いて感じる、府中というまち
「まちは生き物みたい」。歩くたびに変化があり、人とのつながりがほどけたり結び直されたりする。古いものと新しいものが混在し、歴史や文化が息づく。「昔からの人も、新しく来た人も混ざり合って、府中にはそれぞれのエネルギーがある」。だから、描きたい景色が尽きないのだという。《武蔵府中絵巻》は道案内であり、未来の郷土史資料でもある。
今日もかぶらぎさんは府中のまちを歩きながら、イラストを描き続けている。

かぶらぎみなこ
東京都府中市在住。イラストレーター
書籍『くらやみ祭ってナンだ?』(2019年4月 遊泳舎刊)、『府中まちあるきイラストガイド』(2021年4月
遊泳舎刊)、冊子「かぶらぎみなこのラグビー絵日記 」(2025年5月刊)は、まちづくり府中オンライン
ショップで購入可能です。
写真:横井 裕子
edit:光永(まちづくり府中)